Uncategorized

スペシャルティコーヒーが負けた日の話

先週、自宅でちょっとした出来事があった。

カフェを始めようとしている知人から、お店で使うコーヒー豆について相談を受けた。候補はBANAKANA COFFEEの豆と、もう一種類の他社の豆。他社の豆はBANAKANA COFFEEよりもランクが低く、スペシャルティコーヒーではない豆だった。

その知人はハンドドリップでコーヒーをほとんど淹れたことがないということだったので、自宅に招いて、私が淹れて飲み比べをして決めることにした。どの豆かわからないように、紙コップの裏に豆の名前を書いて飲んでもらった。

結果は、BANAKANA COFFEEではなく、他社の豆が一番美味しいという評価だった。

今日は、なんでそんなことが起こったのか。自分への反省と戒めの意味もこめて、書いていこうと思う。

経緯

きっかけは、知人が自身でカフェを開くということで、コーヒー豆の仕入れについて相談をくれたことだった。お店で使うコーヒー豆の仕入れ先が、まだ決まっていないという話だった。

その知人は、BANAKANA COFFEEをまだ飲んだことがなかった。さらに、自宅でハンドドリップをすることもなく、器具も持っていない。そこで自宅に招いて、私が淹れたBANAKANA COFFEEの豆を飲み比べてもらうことにした。

また、他の豆とも比較した方がいいと思ったので、好みを聞いた上で、BANAKANA COFFEEの卸価格と同程度の他社のコーヒー豆も用意し、飲み比べをしてもらうことにした。

そのときに言われていたコーヒーの好みは、
「酸味はとにかく苦手で、味が濃くて苦いのが好み」ということだった。
今思えば、この時点でもっとちゃんとヒアリングをしておけばよかったと思っている。

負けると思っていなかった

正直、私にとってはこれはほとんど商談のようなものだった。ここでもし仕入れに使ってもらえるようになれば、大きな収入の柱になるかもしれない。

商談に向けて焙煎を行う。最初は「苦いのが好み」ということだったので、普段販売している豆よりもかなり深煎り寄りに焙煎しようと考えていた。

ただ、そのときにふと思った。
あれ、これってスペシャルティコーヒーの良さじゃなくない?
BANAKANA COFFEEの豆はこのお店で飲めます、と自信を持って言えなくない?と。

私自身が豆を選んで、一番美味しいと思う焙煎でやっているのに、それを曲げるのはおかしい。なので、豆の特徴を活かしたBANAKANA COFFEEのいつもの焙煎で勝負しようと決めた。

ここまで書くと、自分の信念を貫いているようにも見えるが、そんなことはない。

心の中では、もしかしたらスペシャルティコーヒーの爽やかな酸味は好みかもしれない。ブラジルもあるし、これはいけるだろう。と、どこかで高をくくっていた。

商談の日

この日は通常の注文もあったので、朝から焙煎と発送作業。その後、急いで自宅の掃除をして準備を整えた。ついに、BANAKANA COFFEEにとって初めての商談のような時間が始まる。

怪しい雲行きを感じ始める

さすがに「この豆は〇〇です」と伝えて飲んでもらうのはバイアスがかかると思ったので、紙コップの裏に豆の名前を書き、何もわからない状態で飲んでもらった。

まずはホンジュラスから。BANAKANA COFFEEの中では一番軽めの味わいだ。味が濃いのが好きということだったので、もしかしたら好みではないかもしれない。

紙コップをテーブルに置いて、私は次のコーヒーの準備をする。ただ、耳は後ろで知人が何と言うかに全集中。すると小さい声で一言、「美味しい」。

よし、いい感じ。と心の中で叫びながら、次はエチオピアの準備。酸味が苦手と言っていたから、これがどういうリアクションになるかが気になった。

ドキドキしながらエチオピアをテーブルに置く。また同じように次のコーヒーを準備しながら耳をすましたが、特に何の反応もない。あ、やっぱり本当に酸味が苦手なのかな、と思った。

そして次は大本命のブラジル。こちらも特に大きな反応はない。不安になった私は、ブラジルまで飲んでもらったところで、現時点での順位を聞いた。

1位:3杯目【ブラジル】
2位:1杯目【ホンジュラス】
3位:2杯目【エチオピア】

「3杯目が一番美味しかったです」と言われたときは、ひとまずホッとした。ただ、順位を聞いたとき、事前に言っていた好みと完全に一致していた。

あれ、これ本当に自分の味の好みを正確に把握している人だ。そうなると、本当に苦いのが好みかもしれない。ドクンドクンと心臓が鳴り始める。

そして次は、今回のライバル。他社のコーヒー豆だ。これはとても深煎りでコクも強く、BANAKANA COFFEEとは対極にある豆だった。

ちなみに私もこの豆を飲んだことがあった。確かに美味しいけれど、雑味があって少し飲みにくい感じがあったり、香りが弱めだったりという印象だった。だから、これは勝てると思っていた。

あ〜やばいかもなぁと思いつつ、他の豆と同様にドリップして提供する。特に「美味しい」などのリアクションはない。え、どっち?と思いながら、残りのケニアを準備して飲んでもらった。

全ての飲み比べが終わり、「一番美味しかったのはどれ?」と聞いた。指された紙コップを持ち上げて裏面を見る。そこには「他社」の文字があった。

ちなみに最終的な順位はこちら。

1位:他社のコーヒー豆
2位:ブラジル
3位:ホンジュラス
4位:エチオピア
5位:ケニア

2位以下との差はかなりあった様子だった。

冷静に考えれば、当然だった

結果を聞いたとき、最初は正直ショックだった。でも、冷静に考えてみると当然だった。

その人はエスプレッソを飲むくらい深煎りが好きで、とにかく濃くて苦みのあるコーヒーが好みだと言っていた。BANAKANA COFFEEはスペシャルティコーヒーの良さを引き出すために、浅煎り寄りの焙煎にしている。フルーティーな酸味が特徴で、それが魅力でもある。

そして私自身も、とにかくクリーンで軽い飲み心地のコーヒーが好みで、そういう豆を選んでいる。

方向性が全く違う。勝てるわけがなかった。

スペシャルティコーヒーへの奢り

過去に、酸味が苦手だと言っていたお客さんが「これなら飲める」と言ってくれたことがあった。そういう経験が積み重なって、いつの間にか「スペシャルティコーヒーの味わいなら受け入れてもらえる」という奢りが出ていたんだと思う。

では、深煎りにすれば良かったのかというと、そうでもない。深煎りにすれば豆の個性は薄れる。スペシャルティコーヒーの良さは出なくなる。そうなると、そもそもBANAKANA COFFEEの豆を使う意味がなくなってしまう。

だから最終的に、BANAKANA COFFEEの豆はそのカフェには合わないかもしれない、という結論になった。それは少し悔しいけれど、正直なところだと思っている。

ランクより、好みが勝つ

この出来事で改めて気づいたことがある。

ランクが高いから売れるわけじゃない。良いものを作っているから選ばれるわけじゃない。お客さんの好みに合っているから、選ばれる。

これはコーヒーに限った話じゃない。どんな商売でも同じことが言えると思う。品質を高めることは大切だけど、誰に届けるのかを間違えると、どれだけ良いものでも刺さらない。

市場にはいろんな好みの人がいる。BANAKANA COFFEEが全員に合うわけじゃない。それは当たり前のことなのに、いつの間にか忘れていた。

人の感想を聞くことの大切さ

もう一つ、この経験で気づいたことがある。

実際に人に飲んでもらって、感想を聞く機会はそう多くない。オンラインショップだと特に、お客さんがどんな感想を持ったのかが見えにくい。だからこそ、こういう機会は貴重だった。

「酸味がある」「フルーティー」「濃い」「苦い」。人によって味の表現は全然違う。その言葉をたくさん聞けるほど、自分のコーヒーを説明する引き出しが増えていく。それがお客さんに伝わる言葉につながっていく。

負けた経験だったけど、学びは多かった。奢らず、お客さんの好みと向き合い続けること。それが商売の基本なんだと、先週の自宅で改めて思った。